お笑いコンビ「カラテカ」のボケ担当・矢部太郎さんが初めて描いたマンガ「大家さんと僕」で、第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞されました。
偶然、漫画原作者である倉科遼氏と会い、大家さんとの生活を話したところ感動し「映画化しよう。原案を書いて持ってきて」となり、これを矢部太郎さんがマンガで用意したのが始まりだそうです。
マンガの中では37歳の矢部さんと、87歳の大家さんの日常生活の物語。”ほっこり”というひと言で説明して良いものかどうか考えながら、届いた「大家さんと僕」を読み終えました。
ほっこりのその先にあるものは?
帯にも「日本中、みんな、ほっこり。」と書かれているんです。
ひょんなことから元二世帯住宅の2階に暮らすことになった矢部さん。1階には高齢の大家さんが住んでいます。
当初、大家さんとの距離感を測りかねた矢部さんと、少しずつ心が近付いていく、そんな物語。
戦争を生き抜いた大家さんと、戦後生まれの矢部さんはギャップがあって当たり前。でも、お互いの優しい気持ちが、それぞれをそれぞれに受け入れていきます。
伊勢丹にはタクシーで行き、豪華なランチを食べ、お茶を飲み、2,000円もするたらこを買う大家さん。もともと資産家でもあると思うのですが、昔と変わらず残っているのは伊勢丹だけ、他の店には入れない、という言葉にはっとさせられます。
大家さんは子供の頃にお祭りにも行かせてもらえなかったというエピソードも出てくるのですが、お嬢様だったのでしょうね。とにかく上品なんです。不思議と絵柄から気品も感じます。
そんな大家さんの人柄と、天然なんだか狙っているのか分からない微妙なボケ加減もあったりして、なんだか世知辛い世の中で読んでいると温かい気持ちにさせてくる‥‥そう、まさに”ほっこり”なんです。
でも、読み進めるうちに、最後のほうには思わず目に涙がたまります。決して悲しい、寂しい話ではないのですが。
自分の最後を思い葬儀を準備し、残すものも整理し、東京オリンピックは生きてないから興味がないという大家さん。
達観しているというか、きっと90歳も近くなると十分に生きたという感覚も生まれてくるのかもしれませんが、淡々と物語が進行していくともう‥‥ちょっと胸に詰まるものがあるのですね。
難しい話ではありません。淡々と、ただ淡々と日常です。でも、生きるって、日常って深いんだな、と、そんなことを改めて思い起こしながら読んだ作品でした。
淡々とした日常の中に、たまに”ほっこり”があるのが理想ですね。
まだ、矢部さんと大家さんの日常は淡々と続いているのでしょうか。
久しぶりに90歳の祖母に会いたくなりました。