矢野さん( @yanojapan )が監修した「もめない片付け」の本が出版され、浦和の須原屋書店で発売記念イベントをされるということだったので、話を伺ってきました。本のタイトルには「50代からの」と入ってまして、自分には少し早いかなと思ったのですが、片付けの基本的な考え方など、非常に参考になる内容でした。
われわれの世代は親の介護、同居などがこれからの人生の重要事項として加わってきますが、いつまでも他人事ではないな、と感じました。いつまでも親ともども元気でいられれば良いのですがね。
「もめない片付け」ミニ講座レポート
編集者の方の実家が東日本大震災で被災した。片付けしておけば良かったと両親は後悔。災害の備えとして片付けも大事と気づいた、と。
矢野さんは実は掃除も片付けも嫌い。短時間でいかに家事を済ませるか、手を抜くのではなく。クオリティの高い家事をいかに短時間で済ませるかを研究してきた。そういう人間でもきをわずにできる家事の方法を紹介。
もう一人の著者は桑原紀子さん。介護のプロ。かつては助産師をしていた。人の身体と心の仕組みが大好き。子供と親の関係性などもあるし、なんとか片付けを考えていけないか。今は父と二人暮らしでもめている。実家を片付けた荷物が山積み。専門家とはいえども家ではもがいている。
50代を迎えると片付けはどう変わるのか?
桑原:もうそろそろ50代。家族が増える。子どもとの関係、家を買う、親が長年同じ所に住んでいる。人が増えればものが増える。更年期障害、思う通りに身体が動かない、肩が痛い、小さいものが見えない‥‥増えるものにどう対処するか。
矢野:どう変わるかではなく、年齢に応じて家事全般は変えていかなければならない。しかし変えている人はほとんどいない。大人になると切れ目がない。40、50、60歳になるにつれて筋力が落ちる。持てていたものが持てなくなる。動くこと自体が面倒に。家事を変えていく必要がある。
今回は事前にお悩みを募集しており、それを元に桑原さん、矢野さんからアドバイスがされました。
【実家】古い人形を処分したいけど親が嫌がる。親が渋って片付けられない。
桑原:親を実家から呼び寄せた。荷物を処分してからきてくれとお願いしていたが‥‥人形が増えていた。5円玉の亀、リリアンの束、キーホルダー、見なかったことにしたかった‥‥そんな折、母が亡くなってしまった。
父が「和室に置いていいか」と。母の仏壇の向かいに置きたい、と。私にとっては邪魔。よくみると転勤、出張、旅行先で買ってきた2人の思い出の品だった。堅く言うと高齢者の特性。エピソード記憶。ずっと残る。心のよりどころになっている。選別するのを落とし所にした。
矢野:どう嫌がらせないで処分できるか、という質問だと思うが「処分しないといけないの?」というところから入るべき。今回の本の根本かもしれないが「なぜ実家を片付けないといけないのか?」いちばん困るのはどこに何があるのか分からずに他界されてしまった場合。誰を葬儀に呼ぶ? というのも。
大事なことは2段階。一つは手続き系(誰を葬儀に呼ぶか等)。あとは保険、年金、貯金‥‥。誰かに遺したいと思っているものを把握しておく。それ以外は亡くなった後に一斉に片付けてしまえば良いこと。自分が必要としないものがあるから片付けたい、と入ってしまう人が多い。
しかし、そこには両親の暮らしがある。「なんのための片付けなのか?」を念頭に置く。お父さんお母さんが悲しくならない範囲でやっていくべき。無理に捨てなくても良い、というのが私の返事。
【実家】布団がたくさんありすぎて押入れを占領。
桑原:お年寄りには重い布団でないと寝た気がしないという人が多い。若いと季節ごとに陰干しできる。場所があるから入れておくとなると衛生状態も悪くなる。思い切って捨てるのもひとつ。スペースが空けば他のものを入れることができる。
矢野:使ってないものは捨てればいいじゃない。思い出系とは別。実用品は実家、自宅問わず捨てましょう。お客さん用に‥‥頻繁でなければレンタルすればいい。人形を捨てる場合は 1 神社などで預かってくれる 2 業者が引き取ってくれる 自分で見つけられない場合は業者でも。
圧縮袋もある。とはいえ捨てる方を優先した方がいい。そこまでしてでもとっておくものがあればいいが、そうでない場合は考えて捨てる。ずっと置いておくと衛生的でないので。
【実家】廊下に洋服や荷物が置かれていて、今は通れるけど地震が起きたらマズイのではないかと不安。
桑原:なぜお父さんは棚をつくるのでしょう?(笑)物が落ちるので危険性がある。ホコリ、ダニ、カビ、衛生的によくない。年をとってから喘息になる人がいる。
高齢になるとバリアフリーも考えないといけない。施設にいくと転ばないが家だと転ぶ。畳のへり、ふすま。あえて段差をあることにして筋肉を使っていこうという考え方もある。が、落ちているもの、滑るものはなくした方がいい。棚が支えになる場合もあるが、服はならない。
「どういうふうに歩いているのかな?」と観察した方がいい。動くものは取り払ったほうがいい。
矢野:私は捨てろで終わってしまう(笑)義理の両親が立て続けに亡くなった。きれいに片付けていたが、棚があり物が並んでいた。安全ではなかった。物が多いとは思っていたが捨てろとは思っていなかった。ただし危険な物は排除してあげた。
ずっと暮らしてきたから「自分たちが年をとって避けられない」という意識に至らない。そこはソフトに伝え(ものが落ちたら危ない)、場所を変えるようにした。ソフトに言うのは重要。家族に対しても。例えば家事はやっている方が偉いと思ってしまうところがある。
よかろうと思って手伝った旦那さんに「皿を入れる場所が違う」と怒ってしまう。どんな関係でもコミュニケーションが大事。いかに相手が気持ちよくやってくれるか、を言葉を選びながら。夫婦でも兄弟でも。弟相手でも考えている。慎重に言葉選びを。
【実家】「いざというとき」のストックが多すぎる
桑原:賞味期限が切れると身体にも良くない。特定のものをたくさん貯めこむのは認知症のことも考えていかないといけない。約束したことを覚えているかな? 季節にあった服を着ているかな? 観察のポイントの一つ。
どうやったらストックを減らせるか? 場所は決まっている。そこをチェックして貯まっているものがあれば「貰っていっていい?」と。捨てるというと角が立つ。「バザーで使うから」「バーベキューするから」そうするとスムース。ただしスペースがあるとまた貯めてしまう。
矢野:自宅でもこの問題を抱えている人は多い。テレビのロケでも多いパターン。99.99999%以上賞味期限切れが半分以上ある。「いざってなに?」ということを考えてない。もし「いざ」を考えていたら‥‥どう考えてもカレーとシーチキンが多くはならない。自分で認識してない。
無意識に動くのではなく、なんのために動くのか、考えてから行動するべきと考えている。熊本地震の後も備蓄の話が出てきた。災害の時のものは別に管理することをオススメしている。使いながら備蓄は方法として悪くないが、それができる人はいない。
私は3.11と9.1にチェックするようにしている。可視化する方法をオススメしている。表にする。レトルトカレーは在庫が何個必要か? 全て書き出す。それ以上には増えないようにする。減ったら買う。可視化しておけば在庫管理もできている。
【実家】片付けたい気持ちはあるがとにかく捨てられない(編集者さんの実家)
桑原:よく見ると全てにラベルが貼ってある。「地下鉄散歩の箱」「スピーカーコードの箱」「トランヴェールの箱」私の父もデアゴスティーニを綺麗にファイルしている。「いつか使うから」これだけ整理して開かずの間があるのなら今じゃなくてもいいのかな‥‥と。
矢野:これだけ整理しているなら亡くなってからでいいと思う。整理はされている。
シニアにはスキャナーとタブレットをすすめている。スキャナーは今は簡単に使える。小さいものがある(ScanSnap iX100を紹介)。どんどんタブレットに入っていく。デジタル機器は苦手と思われがちだが2〜3歳の子でも使っている。直感で使える。
本人も整理したいと思っている場合は、場所を決めて整理していくと達成感がある。ファイルはデジタルにすることをオススメしている。スキャナーとタブレットは触ってもらうと良い。
【自宅】家の中と外、どちらから手を付けるべき?
矢野:流れからいえば全体的に捨てる。門から出す。そう考えると外のものを捨てると、家の中の捨てるものを外に出せるから。まず通り道を確保する。
ただしゴミの捨てられる日は決まっている。粗大ごみは回数が少ない。それがネックで片付けが進まない人がいる。理想があるからいい加減に片付けられない。ゴミを捨てる日が少ないと進まない。ゴミ置き場をまず分別し、ゴミの日にはすぐ捨てられる状態にしておく
順番を考えないと右のものを左、左のもの右に、で終わってしまう。流れを認識するだけでも違う。
桑原:祖母が亡くなった時にプレハブが庭にでき祖母のものが20年間入っていた。それを母が受け継いだ。ベランダに物置が2個できていた。いま梅酒に悩まされている。瓶が何本も。ガラスの瓶も2個。味噌も出てきた。そのままゴミとして出せない、分別しないと。
高齢者が物置まで何かを取りに行くことは考えられない。つまりいらないものが入っている。素人が作った梅酒は年を経ると腐る。
まとめてあるがどうしていいか分からない、とも思っている。なくなると「ああ、すっきりした」となることも多い。
【自宅】やめてしまった趣味の道具を「いつか使うかも」と処分できずにいる
矢野:「いつか使うかも」は捨てましょう(笑)「いつか使うかも」は日本は土地が高いから捨てましょう。うちの実家は梅酒が2〜30瓶ある。梅畑がある。毎年作るからなくならない。
「いつか飲むかも」が何十年も続いているんだから「誰も飲まない」。備蓄できるのは裕福な家庭だと思う。コスパが良かったから買い物した、と連呼する人は2年に一度は断捨離を始める、ということに気づいた。自分は良い買い物をしたとアピールしたいからだと思う。
コスパがいいかはどうかは、いかにパフォーマンスしてくれるか。買う時は本来は決まらないはず。すっきりしてクローゼットが空いたから買い物してきた‥‥ということTwitterに投稿する人もいる。家の中に置くのは必要なものを置くべき。必要なものを買う。
そう考えると終わった趣味のものは明日にでも捨ててよいもの。
桑原:親問題。いつか読むテープ付きの本。CD。70代になってゆっくりしたらまたやる‥‥それはそれでまとめておいて後で処分でいいのかも。「もっと新しい情報があるかもよ」
【自宅】パソコンなどの空き箱を捨てようとすると夫が怒る
矢野:私の夫がこうだったとする。修理に使うという理由であれば壊れて修理に箱はいらない。一つずつ説得して崩していく。でないと平行線になってしまう。取扱説明書も箱の中に入れておくと必要はない
旦那さんの趣味がある。そこは踏み込まないべき。尊重する。その代わり範囲を決めておいて貰う。この中に収めるならどんな箱をとっておいても良い、と。
桑原:(高齢者の空き缶、空き箱について)「何かのときにいつか使う」と言われる。とっておきのものは残しておく、というのは良いと思う。ただし缶は解決していない。
矢野:捨てよ(笑)
【自宅】収納スペースを活用しきれず散らかっていく
矢野:棚の中の引き出し全てに祝儀袋が入っている。100枚くらいはあった。セミナーで聞く「家に黒いボールペンが何本把握しているか?」極論をいえば1本でいいはず。ものに対して必要な数は決まっているはず。
見るたびに良さそうだと買ってしまう。雰囲気でものを買ってしまうと、家でものが溢れてしまう。片付いている人は自分に何が必要か分かっている人。何が必要か考えていないからものが溢れる。収納アドバイザーは「デッドスペースを活用しよう」という。
何がどこに何個あるか把握しているのが暮らしやすい暮らし方。ものは必要な頻度に置いて1、2、3軍に分ける。瞬時に必要になるものを1軍、1アクションで取り出せるようにする。必要性を考えて軍を考え、アクション数で収納場所を考える。必要なものをいつでも取り出せる
人間は使えるものの数は決まっている。必要か必要じゃないかで考えると、ある程度の家は収納で収まるようになる。
桑原:高齢者にとっても1、2、3軍というのは大切だと思う。すぐにペンがとれる、飲み物がとれる。そこの調整はすごく必要。看護でも介護でも基本は環境整備。環境を整えることで衛生状態、健康状態も良くなる、とナイチンゲールが言っている。「軍」の片付けは大事と痛感。
しっかり消毒するなどして梅酒は開封しなければ大丈夫。印をつけておこう。
質疑応答:
Q. プラスチックの収納がある。最近は引き出し。昔は蓋。蓋は不便。失敗したと思っている。フタ付きの収納はどうか?
矢野:ものを取り出すアクション数の問題。蓋は主流だったが、引き出しの方がアクションが減る。私自身、大きな衣装ケースだともう持てない。年齢に応じて
Q. 実家の片付けはいつからやるか?冷蔵庫がぎっしりと、玄関が汚れ始めたら、片付け時で気をつけることは?
桑原:玄関は多くの人が家の入口、他人と接触する場所、最低限はきれいにしておこうと思う場所。段取りの力などが少し落ちてくる、老化の現れとしてチェックしやすい場所
洗面器。お風呂場はこうこうとしていないので。他にも流しのシンクなど、汚れが増えてきたらサイン。
Q. 片付け業者は自分で調べる以外にある?手間を省きたい。認可はあるか
矢野:基本的に認可されているものはない。◯◯協会のようなものはある。行政に担当部署がない。口コミで調べるしか現時点ではない。
(業者選びに関して)こっちが何をして欲しいか整理してあることが重要。とにかく全て片付けて欲しい、人形は供養して欲しい、など。自分で何をどこまでお願いしたいかはっきりしておく、それから問い合わせのが良いのでは。