ミスターシービーと聞くと、1980年代に活躍した名馬を思い起こします。当然、このマンガのタイトルである「Mr.CB(ミスター・シービー)」 も、名馬にかけたものなのでしょう。
しかし、ここで出てくるCBとは「センターバック」のこと。サッカーのポジションで、ディフェンダー。どちらかといえば、職人というか、攻撃を跳ね返す堅実なポジションではあります。
そんなセンターバックが主役になっていると知って「どいういうことなんだ!?」と思ったサッカー好きは、ぜひとも「Mr.CB(ミスター・シービー)」 を読んでみることをオススメします。
※秋田書店より提供いただきました。
決して派手な主人公ではないものの
「Mr.CB(ミスター・シービー)」 の原作は綱本将也、漫画は谷嶋イサオのコンビで「ヤングチャンピオン」2018年11号より連載されています。
できるだけネタバレしないように書きたいと思いますが、どうしてもネタバレしてしまうところはあると思いますので、読みたくない人はここで離脱してください。
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舞台は東京湾岸地域をホームタウンとする「東京ワンダーズ」です。いわゆる現実のJ1に相当する1部でも、J2の2部でもなく「東京ワンダーズ」は3部リーグに所属しています。
昇格のためのキーマンとして招聘された、ドイツでのプレイ経験も持つ元日本代表の吉永のポジションはセンターバック。
そんな彼がスタジアム建設予定地でひょんなことから出会った高校生が、千明明(ちぎらあきら)です。千明明の身体能力に驚き、自身の年俸を放棄して彼を獲得することを新GMの桂木に進言します。
当然、千明明は有名な選手ではないですし、すぐには試合に出場することもできません。しかし、鍛えればいけると踏んだ吉永は、千明明に野球のキャッチボールを命じます。
これはヘディングが不得意だった千明明の空間認識能力を鍛えるためのものだったのですが。
仮にも無名の高校生だった千明明が試合出場するには、やはり舞台も2部ではなく3部である必要があったのでしょうね。
それにしても、ですよ。ディフェンダーというのは派手さはありません。コーナーキックのときにゴール前に上がってヘディング要員になることはありますが、やはり物語として描くならばFWやMFなど、より得点に絡むポジションだと思うのです。
しかし、面白いと思ったのは、千明明はポジションと同様、派手な性格ではないのですね。どちらかというと、芯は強いけど、前に出ていくことも少ないというか。しかし、秘めたる闘志は持っているぞ、みたいな。
原作の綱本将也氏が同じく原作をしている「ジャイアントキリング」でいえば、まさに椿のような若者だと思います。
そんな未来ある若者を鍛え、導いていくのが元日本代表の吉永で、その吉永を中心に、チームの先輩たちが千明明を気にかけ、いろいろなアドバイスをしていく‥‥時には「自分のように無難な選手になるな」と叱咤激励してくれる選手がいたり。
それにこたえるように千明明は成長し、実は持っていたキャプテンシーも発揮していくようになります。
サポーターとの関係性や、一癖も二癖もある吉永より年下の監督、何を考えてるかよく分からない冷徹そうなクラブGM(後に社長)など、選手・サポーター・クラブの関係性もうまく描かれています。
1部リーグでの優勝ではなく、3部からの昇格。このテーマって、一般の人にウケるのかどうかと思ったのですが、読んでいると何部でも関係ない、と思えているのですよね。それより何より、自分の町に愛すべきサッカークラブがあるということの素晴らしさよ‥‥。
最近では葛飾の「南葛SC(東京都社会人サッカーリーグ1部)」とか、新宿の「クリアソン新宿(関東サッカーリーグ1部)」や渋谷の「TOKYO CITY F.C.(東京都社会人サッカーリーグ2部)」など、Jを目指して誕生するサッカークラブも増えているのです。
実際に2021シーズンから「クリアソン新宿」に世代別の日本代表に選ばれていた柏、横浜、鳥栖でプレイした小林祐三が加わりますし「南葛SC」には鹿島や鳥栖、熊本でプレイした元代表の青木剛もいます。
まさに湾岸地域をホームタウンとしている「東京ワンダーズ」に、元日本代表の吉永がいるというような状況も、現実にどんどん生まれているのですよね。そういうクラブのサッカーを観戦する、応援する楽しさも教えてくれる内容になっているのではないかと思います。
ビッグクラブだけでなく、規模に関係なく、サッカーはそれぞれのクラブが、それぞれのドラマを持っているということを教えてくれます。
いずれ上のカテゴリーへと昇格すると、きっと選手の顔ぶれも変わっていくはずなんですよね。そういった面も、どのくらいまで描かれるのか興味あるところです。もしかすると2部に昇格して終わるかもしれませんしね。
ということで、センターバックというポジションの面白さ、3部のクラブを取り巻くサポーターや経営の話など、これまでマンガとして触れられることのなかった面白さがあるので、サッカー好きな人、センターバックをやっていた人、息子がセンターバックだとか、そういう人たちにはぜひ読んで欲しいマンガです!