ブロガー的・生落語のススメ(3)「ワンコインで楽しめる落語(1)」

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(二ツ目昇進8ヶ月でNHK新人演芸大賞を受賞した桂宮治さん 撮影:四家正紀)

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四家正紀と申します。ごく平凡な落語好きのブロガーです。落語を聴きに行っては、ブログを書いています。

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前回は、落語の多様さについて強調しすぎて、なんだかマニアックな事例を出し過ぎてしまいました。みなさん、ついて来て頂いているでしょうか。

今回からはいよいよ実践編に入っていこうかと思います。

とはいえ、多様である落語の楽しみ方は、やはり多様でありまして、たとえば「初めての落語はどこに行くべきか」という命題に対しても、落語ファンそれぞれにご意見がありまして、特に正解はない世界です。

ということで、この連載では、シケが「ブロガー視点」で自分なり考えてみた「初心者向け生落語ハック」をご紹介してまいります。

■さてどの落語を聴こうか?

ライブエンターテインメントを楽しむときは「日時」「場所」「出演者」「企画」などを選択しますよね。このうち生落語を体験するうえで重要な要素は「場所」と「演者」です。

「企画」の一部である「噺(演目)」は、実はあまり関係ありません。

ここが落語の面白いところで、芝居だったら『リア王』『キャッツ』『熱海殺人事件』とか、映画だったら『スター・ウォーズ』『桐島、部活やめるってよ』とタイトルを選ぶことができるのですが、落語の場合『粗忽長屋』が聴きたくても「●月●日●時より粗忽長屋上演です」と予告すること(これ「ネタ出し」といいます)は、それほど多くありません。特に東京ではこの傾向が強いように感じます。

寄席や落語会で掛ける噺は、それぞれの落語家が自分の責任で、当日さまざまな状況から判断して決めることが多く、下手すると高座に上がっても、まだ何をやろうか考えていることさえあるのです。「何をやってくれるのかな」とドキドキしながら待つのも、またいいものなんですけどね。

しかし「場所」と「演者」なら、選ぶことができるのです。「演者」は多すぎて分かりにくいですから、まずは「どこで聴くのか」ということから考えてみましょうか。

■定席の寄席について考える

落語を聴く場所として真っ先に思いつくのは寄席です。前にも書きましたが東京に四軒、大阪と名古屋に一軒ずつ「いつも落語やってる」定席の寄席があります。

また、東京の国立演芸場でも、月の上旬・中旬は定席と同じ形の寄席興行を開催しています。

寄席のいいところは、とりあえず、いつ行っても落語をやっているということです。休むのは年末のほんの数日で、あとは年がら年中、昼の部と夜の部二回、落語を中心とした興行(「芝居」といいます)を打っています。

その多くは前売も座席指定もないので、ひとりで早めに行けば、だいたいどこかには座れます。たまに人気のある落語家が出ていると、立ち見になったり、入場制限がかかったりしますけど、指定席前売していない限りは、まあ何とか一人なら座れることがほとんどであり、場合によっては寂しいくらいガラガラなんてこともあります。

というわけで「いつでもやってる」寄席は「予約なしにふらっと落語を聴きに行く」には、とてもいい施設なのですが、初心者については問題もあります。

まず、けっこう長い。

現在、昼の部12時から16時半くらいまで 夜の部17時から21時までというのが多いパターンです。もちろん途中入場してもいいし、後から入ると入場料(木戸銭)が割引になったりもしますが、最初からいたほうが好きなところに座れますし、寄席興行がどんなものか知るには、本当は最初から最後まで聴いたほうがいいのは確かです。

しかし、いかに「仲入り」と呼ばれる途中休憩が入るとはいえ、3時間を超える映画もそんなに多くはない中で4時間以上座って落語聴きっぱなしというのは、初心者にはツーマッチなこともありえます。

で、出演者も多い。

出演者と並び順(「顔付け」といいます)については、あいだに漫才やものまね、紙切りなど「色物」と呼ばれる芸人さんが入り、落語ばかりで飽きないようなくふうがされていますが、それも含めて10組から20組の芸人さんか出てきますから、まだ落語に馴染んでいな方は、ちょっと疲れてしまうかもしれません。

また、寄席興行の主役は「トリ(主任)」であり、準主役は「仲入り」と呼ばれる休憩時間の前に出演する「仲トリ」です。多めの持ち時間を任されるこの二人の出番に「つないでいくための連係プレー」が他の出演者の役割で、そのために「わざと軽くやる」こともあります。このあたりの機微は、初心者に分かりにくいところです。

そして、一番問題なのは客です。

たいていの場合、落語家はお客さんの顔触れを見て噺や演出を変えます。団体客や老人客が多い場合、そこに合わせてくるので、若い一人の客から見るとどうもなぁということがあるのです。

「寄席に行ったけどつまんなかった」という声を時々聞くのは、こんなところに原因があるのではないかと思われます。もちろん僕のように最初から寄席の楽しさにはまっちゃう人もいますけどね。

ということで、寄席に行く場合には、まず上記のような、寄席ならではの特殊事情があることを承知の上で行きましょう。承知しておけば意外と戸惑わないものです。

定席寄席興行の攻略法については、また改めて書いてみたいと思います。

●「深夜」に「早朝」ワンコインの寄席がお勧め

前にも書きましたが、初心者が寄席に行くと、多様な落語の中から自分と相性の悪い興行にあたってしまい「つまんなかった」ということがあり得ます。

これ、本当はつまんなかったというより、期待外れということなんですね。2,500円~3,000円と、映画の倍近い値段の木戸銭を払い、拘束時間も映画より長いとなると、期待値が上がってしまうわけです。

そこで!

ケチで知られる私・シケからお勧めするのは「ワンコインで楽しめる落語」です。

東京の落語家には「前座」「二ツ目」「真打」という階級があります。簡単に言うと前座は寄席の裏方を主に担当する修行の身の上で、真打は「一人前の落語家」です。

このなかで、前座修行を終えて正式にプロの落語家として認められているが、真打のように弟子をとったり、寄席興行でトリを取ることはできない落語家、これが「二ツ目」です。

だいたい入門3~10数年の方が多いようで、簡単に言うと「若手」ですね(もっとも80歳以上の現役プレーヤーがいる落語界では「若手」が50歳超えていたりするので、けっこう面倒なのですが)。

この二ツ目が4人もまとめて聴くことができて、お値段なんと500円という落語があるのです。

まず『新宿末廣亭・深夜寄席』です。

毎週土曜日の21時30分開演『深夜寄席』その特徴は上記のとおり「二ツ目の落語家が4人出演で500円」という手軽さにあります。末廣亭は建物が古いので、寄席の風情も楽しめますし、椅子やトイレは新しいのでいろいろと楽です。1時間半という時間も初心者にはちょうどいい感じです。

深夜寄席の難点は終演が23時と遅いことで、お住まいによっては終電に間に合わないかもしれません。そういう場合は日曜日の10時から鈴本演芸場で、やはり二ツ目が4人出演して500円の『鈴本早朝寄席』が開催されていますので、これも狙い目です。

二ツ目だからといって、真打に比べて劣るとは限りません。ふだんなかなか寄席に出られない、出ても持ち時間があまりないことが多い二ツ目さんたちが、伸び伸びとした芸を披露しています。

今回、冒頭の写真でご紹介させていただいた桂宮治さんは、二ツ目昇進8ヶ月でNHK新人演芸大賞を受賞した業界注目の実力派。初心者が見ても「このひと凄い!面白い!」と思わせる上手さがあります。こういう落語家さんも深夜寄席に出ているのです。

そりゃ、なかにはたまーに「おいおい」といいたくなる下手な人も混じりますけど、ワンコインの手軽さがあなたの期待値をやや下げていますから安心です。4人が外れということはまずありません。

というわけで、次回はこの「ワンコイン寄席」について、その攻略法などをご紹介したいと思います。

ブロガー的・生落語のススメ(4)に続く

■過去の記事

ブロガー的・生落語のススメ(1)「落語は気楽なライブ・エンターテイメントです」

ブロガー的・生落語のススメ(2)「落語はいろいろありすぎる」

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プロフィール
四家正紀(しけ まさのり)1967年生まれ 都内IT企業勤務
ブログ「裏[4k]」にて落語に関するエントリーを200本以上執筆し、現在も継続中。先日スタートさせた限定20名の小さな落語会「シェアする落語」第1回(出演:立川談吉)は3日で完売。第2回も開催予定。
落語家と落語会主催者をブロガーの立場で応援するために、日々模索してます。

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