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四家正紀と申します。ごく平凡な落語好きのブロガーです。落語を聴きに行っては、ブログを書いています。
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落語の好きな人も、そうでない人も「寄席」という言葉をわりと簡単に使いますよね。でも、寄席って本当はなんなんでしょうか。落語初心者にとって、どんな意味のある場所なんでしょうか。今回はそんなお話をいたします。
●「定席」ってなんだ
いろんな落語会に「寄席」という名前がついています。『●●寄席』の前に地名や会場名が入るケースが多いですね。じつはこれ「広義の寄席」なんですね。
もともとある「定席の寄席」が本来の寄席であり、これを模した落語会のことを「~寄席」と呼んでいるのです。多少乱暴なことを言えば、京都じゃないけど京都みたいな雰囲気がある町「小京都」なんかに近いのです。
じゃ「本来の意味での寄席」すなわち「定席」って何かと言うと、実はハコ・つまり建物のことです。落語を中心とした芸能の興行を行うために作られた建物です。
これが、この広い日本に6軒しかありません。
東京では上野鈴本演芸場・新宿末廣亭・浅草演芸ホール・池袋演芸場の4軒。大阪には天満天神繁昌亭。上方落語協会がつくった寄席です。名古屋は大須演芸場。
たったこれだけです。
で、この6軒が、ほとんど毎日、落語中心のプログラムでお客を集めています。休みは年末の数日間しかないことがほとんどです。「定席」の意味するところは、この「ほぼ毎日」ということです。多目的ホールとは違うのですね。
まあ、映画館だって映画館が毎日映画やってるんですから、そんなに驚くことはないのかもしれませんが、やはり毎日ライブパフォーマンスをやっている専用の小屋があるというのは、なかなかないことですし、落語という芸能が持つ強みの一つになっています。
というわけで「定席の寄席」とその楽しみ方についてご紹介していきたいと思います。これ以降しばらくは「寄席」と書いてあったら「定席」のことだと思ってください。
●寄席の特長
・寄席は寄せ集め
寄席興行は落語だけでなく、さまざまな芸が「寄せ」集められたパッケージ・ショーです。
まず講談が入ることがあります。張り扇で釈台と呼ばれる机をパンパン叩きながら演じられる話芸ですね。
さらに「色物」と呼ばれる漫才・漫談・マジック・声帯模写・動物物まね・太神楽(曲芸)・ジャグリング・ボーイズ・紙切りなどが、落語の合間に入ります。
これらの「色物」は、落語が続いていく中の「アクセント」「箸休め」的なポジションを担当しています。いくら落語が面白くても、やはりそればっかりだと飽きることもありますからね。
新宿末廣亭の看板には、よく見ると「落語 色物」と書いてあります。
・お囃子が楽しい
寄席には、下座さんと呼ばれる三味線の師匠(女性です)と、前座さんが叩く太鼓や鉦、笛などの生の音楽が必ず入ります。
芸人が出てくるときに必ず演奏される「出囃子」、噺の途中で入る音楽や効果音「はめもの」、寄席芸のひとつ「踊り」の曲、そして曲芸や紙切りなどのBGM「地囃子」などなど、寄席にとってお囃子は決して欠かすことのできない重要なポジションです。
お囃子は、ただ決まった曲を弾くだけではなく、アドリブも達者です。たとえば紙切りの注文で「ディズニーランド」が出たら、ちゃんとミッキーマウスのテーマを弾いてくれます。
・飲食自由
多くの場合、寄席の椅子には背もたれの後ろに小さなテーブルがついています。これは飲み食いしながら楽しむという寄席のスタイルを示しています。弁当を販売する寄席もあり、お酒がOKの寄席もあります。
一方で落語会が開かれる多目的ホールはたいてい場内飲食禁止ですから、これも寄席の特徴と言えます。
・寄席はチームプレー
寄席興行のメインは、何と言っても最後に出てくる落語家すなわち「トリ」です(プログラムなどにはだいたい「主任」と書いてあります)。
トリには、他の演者より長い持ち時間が割り当てられており、最後にしっかりとお客様を満足させる責任があります。
寄せ集められた芸人が、トリに向けて芸を繋いでいくのが寄席の醍醐味です。お客さんもトリを目当てに寄席に足を運ぶのです。
●寄席の落語はパーツである
というわけで、寄席とはつまり、さまざま芸人とスタッフのチームプレーにより、都市のど真ん中に非日常空間を作り出すテーマパークのようなところです。出版に例えると雑誌ですね。いろんなコンテンツが一つにパッケージされて定期刊行されているわけです。
寄席における落語は、このテーマパークの雰囲気を形成するための一つのパーツなのです。
ですので、寄席の落語にはパーツであるがゆえの「楽しさと制限」があります。ひとりひとりの持ち時間も短いし、個性が制限されることもある。客も好きな芸人の噺だけを聴くことができない不自由さを感じることもあります。
そしてなにより、最初から最後まで聴こうとすると、けっこう長いのです。浅草演芸ホール昼の部だと、開演11時40分で終演は16時30分です。実に5時間近い。
最初から聴かないといけない決まりがあるわけじゃないですけど、トリが人気者だと早々に席が埋まりますから、やはり開演前に行ったりすると、日中の半分くらいを寄席で過ごすことになります。
だから、寄席に対する評価は、人によって分かれます。
落語好きの中でも「落語はやっぱり寄席でなきゃ」という人がいれば、反対に「寄席が苦手」な人もいますし、事情を知らない初心者がいきなり寄席に行って、いきなり大満足することもあれば、あまり楽しめずに終わってしまうこともあるわけです。
つまり、寄席でしか聴けない落語があり、寄席では聴けない落語があるということです。
だいたいこんなところを頭に入れておいて、次回はいよいよ寄席に行ってみましょう。
原稿が遅れているうちに、超人気ポッドキャスト番組に出演させていただき、この連載について喋らせて頂いております。良かったら聴いてみてください。
・Modern Syntax Radio Show 341回目 – @shike の巻 – [モ]Modern Syntax
■過去の記事
▼ブロガー的・生落語のススメ(1)「落語は気楽なライブ・エンターテイメントです」
▼ブロガー的・生落語のススメ(2)「落語はいろいろありすぎる」
▼ブロガー的・生落語のススメ(3)「ワンコインで楽しめる落語(1)」
▼ブロガー的・生落語のススメ(4)「ワンコインで楽しめる落語(2)」深夜寄席に行こう!
▼ブロガー的・生落語のススメ(5)「ワンコインで楽しめる落語(3)」深夜寄席に行こう!
▼ブロガー的・生落語のススメ(6)「落語の後は検索!検索!」
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プロフィール
四家正紀(しけ まさのり)1967年生まれ 都内IT企業勤務
ブログ「裏[4k]」にて落語に関するエントリーを200本以上執筆し、現在も継続中。先日スタートさせた限定20名の小さな落語会「シェアする落語」第1回(出演:立川談吉)は3日で完売。第2回も開催予定。
落語家と落語会主催者をブロガーの立場で応援するために、日々模索してます。
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