佐野元春氏がブロガーと対話するという「佐野元春ブロガーミーティング」にお声がけ頂き、参加してきました。
10人くらいのブロガーが集まったでしょうか。ゆったりとした空間でくつろぎながら、最初に「MWS(Moto’s Web Server)」のこれまでの活動の説明を聞き、そしていよいよ佐野元春氏の登場です。
少し遅れてしまったので気づかなかったのですが、すぐそばの柱の陰に座ってらして、いきなり自分の近くから登場されたので驚いてしまいました。
そして「佐野元春からみなさんへ」ということで、佐野元春氏が設立したレーベル「DaisyMusic」に関する話が始まりました。
以下、佐野元春氏の話の概要をまとめたものです。
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なぜ20数年間も契約していたレーベルを離れなくてはいけなかったのか。レコード会社と仲良くしてレコードをリリースすることはできなかったのか。
2000年には気づいていた。既にこれまでのビジネスは崩壊していた。それはインターネットに理由がある。インターネットがあらゆる仕組みを組み替えてしまった。
これは昔から予兆していた。Mac IIciを秋葉原で買い求めてエピックレーベルの役員室の扉を叩いてプレゼンした。1989年のこと。
当時は通信もリッチではなかった。いくつかの革新的なソフトウェアはリリースされていた。ぼくの事務所とレコード会社で通信を使ってone to oneで繋がり合いたいと、レーベルにもちかけた。
ぼく専用のコンピュータをレーベルにおいて one to one のコミュニケーションがスタートした。
そのとき気づいた。
電信で文字がやりとりされるなら、いずれの日には図版や音楽がやり取りされる。
これまでのビジネスはどう変わるのか、と考えていたのが1991〜2〜3年のこと。
1996年、時はやってきた。IIJに電話してメールアドレスを獲得し、いまあるmoto.co.jpを獲得することに動いた。IIJで12人目のお客だったと思います。
そして1996年の誕生日にファンが集まりウェブサイトが誕生した(追記:正確には1995年3月だそうです。1996年は佐野さんの勘違いでした)。
当初はMOSAICでグレーバック。テキストは日本語が通らなくてパッチソフトを入手して日本語を表示できるようにした。それからまさにドッグイヤーだった。
最初に予告したおりインターネットは音楽ビジネスを大きく変えた。しかしSMEはどの業界、メーカーよりも積極的だった。1999年、自社の音楽コンテンツをいちはやく音楽配信として実現した。
しかしその頃、音楽配信とはどういう意味を持つのか、アーティストサイド、ビジネスサイドで理解している人はいなかった。
ぼくはノンパッケージの仕組みを考えた。彼らは一生懸命マネージメントを考えた。
SMEがやろうとしていることはなんとなく分かった。ぼくから申し出た。もしぼくのコンテンツでよかったら、第一号として提供してもいいよ。
それが2000年にリリースしたシングル「イノセント」で、SME初のノンパッケージによる有料の楽曲となった。
確かにライツは全然クリアではなかった。どれだけダウンロードされてどれだけぼくに還元されるかクリアではなかった。だけど彼らの冒険心にかけてきた。
彼らのインターネットの戦略、将来にかけるビジョン。とても無邪気な感じがした。
でもすごくソニーらしかった。とにかくやってみるんだ。ぼくはそこにかけた。ぼくのマインドに響いた。だから第一号の作品に提供する気になった。
「イノセント」という曲は20周年を迎えたときにファンに感謝を伝えたいと思って書いた曲。そのことにも個人的に意味を感じていた。
そしてソニーミュージックは良いアイデアを提供していたし、ぼくたちを楽しませてくれた。
しかし2004年、CCCDの問題。
いかに欠陥があったか。CCCD問題は複雑だった。最初は静観していた。
ソニーがパッケージビジネスを守るために必至な気持ちが伝わってきた。何よりも人類初めてのアクションだったからみんな怖がっている気配があった。革新と保守が拮抗している年だった。
しかしソニーはCCCDを実行してしまう。
ぼくのCDにも、なにか不思議な暗号が埋め込まれる。ぼくのファンに意味さえも知らせずに。しかしぼくの賢いファンたちは気づいた。これは何かおかしい。
音楽ビジネスマンがおかしなことを考えていると気づいた。CCCDの矛先はアーティストであるぼくに向けられた。
なぜ元春はCCCDを容認したんだ?
CCCDのレコードなんか買うもんか。
ぼくは冷静に見ていた。そうしたネットの非難を集めた。そしてSME役員にもっていった。
いまなにがおこっているか知っていますか?
これだけの意見が届いている。
なぜSMEはこれを放置しておくのか?
なぜぼくを守ってくれないのですか?
彼らは口ごもっていた。CCCDの本質を理解している人は少なかったと思う。役員でさえも分かっていたか疑問でした。
VISITORS 20周年パッケージがリリースされようとしていた。レーベルはそれにもCCCDをあてがおうとしていた。
ぼくは新譜じゃないし20年前に支持してくれたファンがほとんどだろう。そう思ったときに、なぜコピープロテクトが必要だろう。むしろ彼らにありがとうと言わないといけないのに。なぜCCCDでお返しをしないといけないのだろう。
そしてもう一度役員にかけあって、これは過去のリイシュー版だからCCCDはやめてほしいと話した。SMEは理解してくれた。このアルバムには適用しない。現場の努力もあったと思うし非常に感謝した。
理知的なぼくの音楽ファンは、そこでぼくとレーベルに何がおこっているか、分かっている人も多かったと思う。
これでどんなアルバムにもCCCDを適用するなんてはずはないだろう、と信じていた。
そしてアクシデントがおこった。
スポークンワーズのライブCDを発表したいと思った。レーベルを通じて。当然ライブ盤なので曲間もいかした形で臨場感に溢れたライブCDをプレゼントしよう。
しかしここにCCCDを入れた。
そのため2枚組にせざるをえなかった。コードを入れることで音声データをディバイドするしかないとなった。
一日考えた。
ファンになんと説明しよう。どうにも説明の言葉が見つからない。
往々にしてメジャーカンパニーはそれまでもビジネスの判断を中心としてやってきた。それは分かる。
しかしぼくのライブCDが、CCCDにより2枚組になることががまんできなかった。
それともう一つ伏線があった。
9.11 光 リリース
止むに止まれない気持ちで作りこの気持ちをシェアしたい。こういう時こそ音楽にできる何かがあるはずだ。
通常だったらレコーディングしてディーラーにわたるまで3ヶ月かかる。でもそれでは気持ちを共有できない。
フリーダウンロードだ。MP3だ。
1週間で8万のダウンロードがあった。
レーベルは呼びつけた。すぐに撤回しろ。無断でやったから悪いことも知っている。しかしこういった。
もう既に8万ダウンロードある。
ビジネスしたいんだったら、すぐに対価をつけてビジネスしてもいいんですよ。
しかしそのことを理解できるスタッフは一人もいなかった。契約しているのにと感情的になった。しかし現場のスタッフは支援してくれた。しかしエグゼクティブたちはかんかん。
それも伏線。
その後にCCCD。
それだけでなく新しい時代におこりがちなコンフリクトが、レーベルとぼくの間におこった。
その原因を冷静にみてみると、インターネットが旧来のものを解放し再構成したことにあるのではないか。
それから1〜2週間よく考えて思った。
従来のメジャーカンパニーのビジネスは変容しなければならない。このままでは楽しい未来は待っていない。
ぼくはロックンロール音楽で育った。いつもぼくを励ましてくれた。
ぼくはやがて成長し、たまたま作詞作曲ができて、多感な頃にきいたあんなポップソングを作ってみたいと思った。
そしてデビューした。
音楽リスナーあってのビジネスです。ぼくのフィロソフィーは簡単なんです。リスナーにベネフィットが落ちることを最優先するべきだ。それがロックンロールのフィロソフィーだ。
CCCDは大人向けの論理だった。楽しい音楽を売る側がおまえのことは信じていないよ、という態度だった。
その関係の中で流通する音楽ってクールなんだろうか?
自問自答した。違うな。
そして自分のレーベルをスタートした。それがデイジーミュージック。なぜデイジーミュージックを作ろうと思ったのか。
2004.7.21 THE SUN リリース
実に4年かかって作ったアルバム。
ぼくの渾身の思いを込めてつくった結晶。
このアルバムをリリースしたときにそれは多くのぼくのファンがメッセージをくれた。なぜデイジーミュージックを立ち上げたのか、そして内容にふれて多くの言葉を送ってくれた。
レーベルを立ち上げたといっても正直なところめげていた。楽しいことも辛いことも共有したレーベルから離れたから。
そのことをくんでくれたのかファンから的を射た意見をもらった。自分のキャリアでこんなに励まされたことはなかった
続いてライブを決行した。
原盤制作、宣伝はデイジーミュージック。ディストリービューションのみメジャーと組む(ユニバーサルミュージック)。
個人のレーベルとメジャーレーベルが組んでくれるのは稀なこと。いってみればただのインディペンデントではない。正確にはメジャーインディペンデント。
これから多くのアーティストが同じようにメジャーインディペンデントを進めていくと思っている。
THE SUNまでファンを4年も待たせたのでツアー直後にレコーディングに入り作ったのが「COYOTE」。
「COYOTE」をリリースするときに現代を荒れ地と捉えていると説明しました。その道行きをひとつひとつ収めたアルバム。ロードムービーのようなアルバム。
佐野元春とiTunes Store
2005.8のスタート時期にいち早く参入表明した。
開店と同時にアップルにいった。正確には運営している会社に。
そこにソニーで仕事していた昔の友人たちがいた。どうしてきみ、ここにいるの?
音楽流通は大きく変革していて、その一翼を担いたい。すぐに仲良くなった。そしてぼくのコンセプトもすぐに理解してくれた。
当時はAVEXをはじめとするメジャーカンパニーとの契約をとらないと大変だった。むしろぼくはiTSでは新しい個性的なインディペンデンツなミュージシャンに門戸を開くべきだと直感していた。
そしてぼくの楽曲を販売して欲しいと自分でプレゼンテーションした。そこでiTSを使ってなにができるのかメジャーカンパニーができないことをやってみたい。
古い友人たちを集めた。彼らの音楽を届ける良心的なメディアがなくなったいま、ぼくはインターネットにかけている。
いい曲だけどどうやって売ったらいいか誰もアイデアがない。だからぼくは集めた。それが「世界は誰の為に」だった。
独立系のミュージシャンがunitedして、パッケージ販売なんてしなくて良い。良いレコードを作り、それをノンパッケージで配信してみんなに聴いてもらう。
これからも独立系の素晴らしいミュージシャンを集めてunitedして、音楽配信で新しい波をつくっていきたい(Music United)。
「COYOTE」は全曲配信アルバムはじめての形で、非常に嬉しかった。
なぜぼくがデイジーミュージックをはじめたか。
これまでのメジャーカンパニーの業態は変わるべきだ。組織力はいかされるべき。しかし原盤を制作したりプロモーションしたりは外にある。
強い営業と音楽に特化したプロモーションをやってほしい。アーティストは千差万別。それを察知してプロモーションしてくれる会社に業態をかえていってくれたら。
そしてそうしたメジャーに対するカウンターとして、デイジーミュージックを位置づけたい。
ファンや音楽リスナーが「うへへい」と直感的に楽しいと感じてくれる音楽を提供するレーベルにしていきたい。
こんなところかな?
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佐野元春というミュージシャンが、なぜ20年も在籍したレコード会社を離れる必要があったのか。なぜ離れなければならなかったのか。
本人の口から語られる言葉により、苦渋の決断であり、未知の世界への船出だったことが分かりました。
新しいことへのチャレンジを愛する佐野元春氏がそこにはいたのですが、キーワードとして次のようなスタンスで動かれているというのが分かりました。
事態が動いている時に静観する
そして見極める
“ご機嫌”になりたい
インターネットにしてもそう、新しいテクノロジーにしてもそう。まずは取り組む。そしてそれが自分たちに何をもたらすかを考える。
特に「見極める」というのは何度も繰り返された重要なキーワードです。
既に「iPod touch」も予約して入手し、それがどのように進化していくかを考えていると語っていました。Palmに注目していたと語り「iPod touch」のPDA的な進化にも興味を持っているということでした。
この後、ブロガーとの質疑応答が行われたのですが、個人的に気になったフレーズをいくつか。
・ぼくはロックンロールで表現する人間だから50%の楽観主義で
・何かを実現するための仕組みに目がいく。プログラミングに興味
・携帯電話は持っていない。ご機嫌な携帯電話がないから
・アーティストの権利意識が変わるべき時にきている
・デイジーミュージック以降は自分の考えで自分で決裁できる
・そこで考えたのがmusic united
・今はアーティストとリスナーの信頼を取り戻そうとしている時代
・かつてのラジオメディアとネットは非常に近いものがある
・ライブありきだと思うと、非常に気が楽になってくる
インターネットでも、ワンクリックいくらのバナー広告がアフィリエイトプログラム、コンテンツマッチ広告(Google AdSense)へと進化し、個人の“情報発信者”にお金が還元させる仕組みが整ってきました。
ファンからお金を集め、ファンド的な取り組みでアルバム制作をしているミュージシャンもいるという話が佐野元春氏からもあったのですが、そうしたお金が還流していくシステムというのは、音楽業界でも変わっていくのかな、と感じました。
その先鞭として、
・自分のレーベルを作り原盤制作をしプロモーションする
・ディストリービューションは大手に
という「DaisyMusic」の取り組みがある訳です。
もちろんディストリービューションをiTunes Storeに頼ることもできるでしょうし、楽曲は無料で配布し全国ツアーという方法もあるのかもしれません。
ただ必要になるのは、良い楽曲をつくることと、上記のようなことが分かるマネージャーなりアーティスト本人の知識となるのでしょう。
そしてその先駆けとして、佐野元春氏が考えたのが「Music United」という取り組みだということです。
インディペンデントがメジャーと拮抗できるような力を持つという話は、ブログにも通じるものがあるような気がして、Happyな夜でした。
インディペンデントなミュージシャンと、ブロガーで何かシェアできるものもあるんじゃないか、という気もしました。
そして何より「佐野元春」というミュージシャンが、ブロガーとミーティングして何かを語りたいと思ったという事実がすごいです。
最後に、MWSのiPhone版が作られているそうで開発中の画面を見せて頂いたのでそちらを。
追記:COYOTE – 第一回「佐野元春ブロガーミーティング」開催される – Moto’s Web Server
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