エスティマが世に出てから20年目を迎え、ファミリーに愛されるミニバンになりました。しかし、若い世代にエスティマのイメージはどのように浸透しているのか?
エスティマのイメージが確立していない若い世代たに向けて、ブランドイメージを再構築するための一つの手段として選ばれたのが「PhoneBook」でした。
「PhoneBook」というのは、iPhoneを入れ込むことが出来る本です。iPhone x Bookで「PhoneBook」です。
本のページをめくりながら、iPhone内のページもめくっていくと、本の内容に添ったインタラクティブな遊びを体験することができる、というアプリです。
第1弾も購入しておりまして、そちらはかなり小さな子供向けだったのですが、第2弾はやや大きな子供も対象になっているようで、うちの息子(4歳児)にはこちらの方がいいな、と思いました。
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今回、お話を伺ったのは、トヨタマーケティングジャパンのマーケティングディレクター、片岡さんです。
片岡さんはもともと、トヨタで20年間に渡りミニバンやSUVの開発に携わっていたそうです。
まず最初に、片岡さんから今回のプロジェクト、つまりエスティマがiPhoneアプリと本を組み合わせた「PhoneBook」に補助金を出すことになった経緯を伺いました。
(「PhoneBook」通常版2,980円に対し、補助金版はエスティマが1,000円補助金を出し1,980円に)
短期的ではなく中長期的なブランドの再構築をしたい
「エスティマが1990年に世の中に出て20年目を迎えた。20年たって愛されるミニバンにはなった。20年たつと子供たちがどんな大人になっていくのか、というところが気になる」
「エスティマのお客さんは20年の間に変わった。最初は先進洗練というイメージだった(今でも40〜50代が持っているイメージ)。しかし、20〜30代にはそのイメージが合わなくなってきている」
今のエスティマは20〜30代にとってどんなイメージなのだろうか、それを再確認し、再構築することが、今回のプロジェクトの根底にあったそうです。
エスティマは指名買いをするお客さんが多く、20年間に渡りコンスタントに売れ続けている理由を探ると「知的」というキーワードが出てくるそうです。
「エスティマに知的というイメージを感じ取っている人たちの購買意欲、興味関心が高い。知的イメージを持ってくれる人はエスティマに興味を持ってもらえる可能性があると感じている。トヨタとしてはその部分を伝えていきたいと思った」
では、お客さんは何を持ってエスティマを知的と捉えているのか? 調査の結果、一つはそれが外観のデザイン、スタイルであることが分かります。そこでテレビCMで、まずそのことを訴求し、初代からフォルムが変わらないというメッセージを送りました。
これは、今までエスティマを購入してくれたお客さんに対するメッセージとなりました。
一方で、エスティマにはアイデアや好奇心といった情緒的な部分から感じられる知的イメージがあることも調査で分かり、これから購入を検討する20〜30代、つまりイメージが確立していない世代に向けたメッセージとして何ができるか、と検討している時に「PhoneBook」と出会ったのだそうです。
アナログとデジタルの融合
「『トヨタの天才タマゴ』のキャッチフレーズで誕生したエスティマ。子どもたちの知的好奇心は未来の宝であり卵でる。卵をかえすには環境が必要。それにPhoneBookは一助になるのではないか。子供を抱えて遊べる、ひざ上コミュニケーションという良い距離感。読み聞かせと同じと思っている」
「もう一つは、PhoneBookのコンテンツが良かった。『みんなの○○を○○している』という、社会貢献の重み、仕事の敬意を学び取って欲しいと思った」
「一緒に遊ぶ親も含めて、子どもたちが大きくなるにつれて、かつての学歴社会からのマインドチェンジが必要ではないか。これだけみんなが情報を得られるようになると、知識をどう使っていくか、子供たちが使っていかなくてはならない大事な武器なのでは、と思う。なので“好奇心”が大事ではないかと思っている」
実は、この“好奇心”というキーワードが後々、数多く登場することになります。もともと開発畑にいた片岡さんにとって“好奇心”は、自分自身がその道を歩むことになった大きなきっかけだったのだそうです。
クルマを離れて、子どもたちの“好奇心”を応援するために、どんなことができるか? そう考えた時に、PhoneBookへの「補助金」というアイデアが出てきます。
テレビCMでは機能的な価値を伝え、PhoneBookでは“好奇心”を始めとした情緒的価値を伝えていきたいと片岡さん。
これですぐにエスティマを買ってもらえるとは思っていない
素人考えでも、PhoneBookに補助金を出すことで、どうエスティマに繋がるかは難しいところがあると思うのですが「短期的に売れるということではない」と片岡さんは言いました。
「メーカーからのメッセージ、応援していることが伝わることで、エスティマはそういうことを考えているクルマだったよね、ということを1年先、2年先に購入検討する時に思い出して頂ければ嬉しい、と思っている」
PhoneBookの同梱物には「エスティマお出かけBOOK」があり、バーチャルな体験からリアルな体験につなげて欲しいのだそうです。「好奇心に刺激を与えて欲しい」と、ここでも“好奇心”が飛び出しました。
「なぜだろうと思ってもらうことが好奇心に繋がるのではないか。疑問に思うことは大人だろうと大事だと思っている、そこから全て始まるのではないかと。そういう仕掛けを面白いと思ってもらえると、エスティマブランドという情緒的な価値の上でのやり方、思いが届けばいいのかな、と思っている」
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とにかく、片岡さん自身が“好奇心”の塊で“好奇心”に突き動かされてさまざまな施策を行っているのだな、ということを実感するインタビューでした。
ご自分でもおっしゃっていましたが、役所広司を思わせる長髪は、トヨタの中でもかなり独特な風貌なんじゃないかと思います。しかし、その「トヨタらしくない」ところが、今回のようにクルマの販売には直結しなそうな中長期的な施策に踏み出すことができたのだな、と思いました。
もちろん、今すぐ目の前でクルマが売れることも大事ですが、次代を担う子供たちのことを考えながら、そこに向けたアイデアも出しているのは素敵なことだと思いました。むしろ片岡さんはクルマよりも子供が好きで仕方がないんじゃないかと思ったくらいです。
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以下、片岡さんに質問させて頂いたのですか、ほとばしるような熱い思いを回答して頂きました。
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Q:これまでにこうした事例はあったか?
A:ない。トヨタにとってもチャレンジだった。クルマの開発をやっていたが、マーケティングをやることによって、こうしたコミュニケーションの部分でお客さんの心の中をちゃんと方向を決めるようなことができる。クルマづくりだけではなかなかそういうことはできない。伝えることの難しさも勉強になった。ある意味では直接、クルマでないものの方がお客さんの認識を作るのに有効なのでは、と感じている。
技術側とマーケをうまく繋げたい、という思いがある。クルマに直接、ばかりではいけないのではないか。ましてやメーカー目線の、すぐにクルマ、クルマというところに落とさないといけない、ということでは今後、太刀打ちできないのではないか。それが挑戦だと思っている。それでお客さんの認識が変わるのであれば、今後は増えていくかもしれない。これを面白いと思ってもらうことが他の業界でもコミュニケーションの仕方が変わって行くきっかけになるのでは。
開発は20年やっていた。海外生産のクルマの開発責任者をやっていた。からこそ、マーケになって新しい発想ができている。クリエイティブの人たちと話が合う。アイデアとアイデアをぶつけながら、新しいことを生み出すことに楽しさを感じている。直接的なクルマと心の中に残るものではちょっと違うが、同じものづくりだし、最終的にはものづくりだと思っている。
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採算度外視!
とまでは言っていませんが、熱いです。もう少しクルマの販売のことも考えた方がいいんじゃないか、と外野が心配になるくらいです。
いかに、PhoneBookが子供に良いかと思っていることも熱く語って頂きました。
「本という形が、一緒に持って遊べるというのがすごくいい。小さい頃だと読み聞かせしてもらった、という記憶が残ったり。これからはデジタルと普通の本の両方が残っていくのではないかと思っている。子供が本を読むのは好奇心を解決する一つの手段」
「科学的なことだけでなく、普通の仕事であったり、世の中を生きていく上では、好奇心があるからこそいろいろなことを考える、どんな職業にも役に立つだろう。教えられたことだけでは渡っていけないだろう。分からなかったら調べる子供になって欲しい」
「好奇心の源はアポロだった。月面着陸はモノづくり、未知のものへの憧れとして鮮烈に覚えている。そういうことが子供が夢をもったり、そういうことに繋がっていると思っている。そこからクルマへ興味が出てきた。好奇心が源、それが大事だと実感している」
間違いなく、片岡さんは“好奇心”の人なのです。トヨタを見る目が変わっちゃいました。
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