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「ご当地でハイボール一杯やりませんか?」
ある日突然、サントリーさんのうら若き某女子からお誘いがきた。
夜の歌舞伎町で夜の蝶たちから声をかけられたワケではない。声を大にして言っておきたいのだが、酔っ払いがお店のお姐さんに声をかけられたのとワケが違うのである。お天道様の下、天下の公道でうら若き女性から「一杯やりませんか?」と言われたワケなのである。あまつさえ、その場所は「旅行先」なのだ。もはやこれは先祖の武勇伝として子々孫々に語り継いでも差し支えない大事件である。
まあ、子々も孫々もいないのですけどね。
この大事件のワケを簡単に説明すると、サントリーさんが展開しているジムビームで作る「ご当地ハイボール」を「ご当地」に行って取材してきてほしいというご依頼があったワケなのである。
「なんだ、仕事かよ!」と思われるかもしれない。しかし、「ううら若き女子」から「誘われた」という事実関係には争う余地はないのである。裁判でも最も大事なのは事実関係の確認である。そのあたりの事実関係を裁判員のみなさまには重視していただきたい。
ちなみにその後、うら若き女子はこのツアーには帯同しないということが判明したことも事実関係として申し伝えておきたいところである。
そんなわけでご当地ハイボールの旅は始まったのですが、いやあ今回は、というか今回も呑んだ呑んだ。二日間でハイボールだけで25〜26杯呑んだ。そんなご当地ハイボールの旅で訪れた場所について話をしてみたいと思う。
思えば最初の一杯からフルスロットルであった。
旅にはPR会社の二人のM女史が一緒に来てくれたのですが、この女史たちは恐ろしいことに行きの新幹線の中でおもむろにジョッキとジムビームの瓶を取り出し始めるのだ。
出張族であふれる朝の新幹線の中で!である。
「お嬢さん、正気ですか?」と聞き返す間もなく、我々のジョッキにはなみなみと第一杯目のジムビームのハイボールが注がれたのであった。ちなみに、この二人のM女史もうら若き女性であったことも申し伝えておきたい。
ほろ酔い気分で最初に訪れたのは「ひろしまお好み物語駅前ひろば」にあるお好み焼き屋の「こっちじゃん」。
こちらは料理もウマかったが大将にも味があった。
広島といえばどうしても「仁義なき戦い」をイメージしてしまうので「ここらで男にならにゃあ、もう舞台は回って来んど、おうっ!」とスゴまれたらどうしようかと思っていたのだが、ここの大将実にいい人。
見た目は少々イカツイんだけとても謙虚で丁寧な人で、謙虚な感じはトーカ堂の北社長にも負けていないと思う。次々と自慢の料理を出しながらも嫌味がない。さりげなく隠しメニューも出してくれるのである。駅前にあるので、広島旅行の最初か最後に広島レモンハイボールでお好み焼き食べに行くのもイイと思う。
気分が盛り上がってきたところでお邪魔したのが広島市中央卸売市場。こちらを案内してくれたのがこちらの所長さん。
てっきり八百屋のオヤジみたいのが「ワシャあ、所長じゃけえのう」みたいな感じで出てくるかと思っていたら、シュッとしたジャケット姿の好青年がいらっしゃる。
「ツナギ姿のオッさん」という風体の我々の方がよっぽどJA広島果実連という感じである。思わず「今回のために果実連さん役者を仕込みましたね」と言いそうになる。
所長の颯爽としたビジュアルに驚きと羨望の気持ちが芽生え、オジさんは上目づかいで所長を睨みつける。そして意味がよくわからないが「コノヤロー」という気持ちになって市場内を歩きまわる。そこらじゅうに積んである野菜や果物に対しても意味なく睨みつける。もはや変人である。
しかし、爽やかな所長さんが広島名物のレモンや八朔について熱く語るのを聞いているうちに、徐々に荒んだ気持ちが柑橘類の香りに爽やかな気持ちになってくる。
そして「形の悪いものが広島レモンハイボールや広島はっさくハイボールのシロップになるのです」と教えてもらうころには、「見た目で判断しちゃいかんよね。中身でしょ。中身。」などとありえないくらい掌がひっくり返るのであった。爽やかパワーは恐ろしいのだ。
そんな爽やかなJA果実連さんたちと次に訪れたのが広島のご当地ハイボールがいただける焼肉「黒焼」。ココでサントリーの北谷さんと合流。
最初に3品だけと聞いていたのだけれど、出てくる肉、出てくる肉がウマい。しかしアッという間に3品目が終わってしまった。「もっと噛めばヨカッタ、飲み込まないでおけばヨカッタ‥‥」と自責、悔恨の念に駆られる。
すると、厨房から颯爽と見事なハラミ肉が極上の自家製タレを従えて登場してくるではないですか。この眩しい姿はレッドカーペットの上を歩くハリウッドスターたちと見紛うばかりだった。焼肉界のブラピ夫妻といわれるのも納得である。いわれていないと思うけど。
このハラミの登場感は「爽やか所長」の登場感にも負けていなかった。登場感については「所長とハラミが広島のツートップじゃけえの」といわれたとしても「まあ、そうだろうな」と思う。
この粋な計らいを演出してくれたのは、あまりにメランコリックになったオジさんたちを不憫に思った「黒焼」の大将だった。わざわざご夫婦で顔を見せてくれて、自家製の秘伝のタレについても熱く語ってくれたのだった。
ここのお店、実に爽やかなホスピタリティである。心遣いである。ここでも爽やかパワーの恐ろしさを痛感するオジさんたちなのであった。
2日目は岡山に移動。
岡山に着いて最初に向かったのがパクチー農家の植田さんの畑。そう、岡山のご当地ハイボールは「岡山パクチー」なのである。
畑に車で向かってみると、そこに現れたのは軽トラに乗った黄色いツナギ姿のニーチャンである。「芸人さん?」と思われたその人こそが、実は岡山パクチーをゼロから作り上げた植田さんなのであった。
変わったニーチャンだなあと思いながら話を聞くと、この植田さん実に熱い。深い。脱サラして婿入りして農業を始めたこと。なかなか農家になじめなかったこと。17年前からパクチー作りを始めて、最初はまったく売れなかったこと。様々な苦労を乗り越えて今に至るストーリーを聞き、まさに体が震える思いであった。
念のために言っておきますが、きっと体が震えたのは寒いなか畑で氷の入った「岡パクヒート」を呑んだからだけではなかったはずである。間違いない‥‥はず。
そんな熱い植田さんと向かったのが、牡蠣入りお好み焼き「カキオコ」が有名な行列店「もり」。こちらで岡山のご当地ハイボール「岡パクヒート」が呑めるとのお話でやってきました。
ココだけの話ですが「もり」の大将はチョイと強面の印象。そこに現れたのがサントリーの佐藤さん。佐藤さんもこれまたゴツイ。「もり」の大将、佐藤さん、オジさんの我々。そして黄色い植田さん。広島の「仁義なき戦い」が岡山に飛び火したかたちである。
そんなこんなで岡山のご当地ハイボール「岡パクヒート」で大将の繰りだす驚愕のパクチー料理を肴に、植田さん、大将、佐藤さんの三人が開発したという「岡パクヒート」の開発秘話を聞く。
一見、コワオモテの大将も佐藤さんも一緒に呑んでみると実に爽やかで楽しいひとたちなのである。しかも熱い気持ちをもっている。
パクチーも第一印象は「香りがキツイ」と思われがちである。でも岡山パクチーを食べてみるとそんなにクセはなく、むしろ甘くて爽やかなのである。
そう、まさにこの「岡パクヒート」の開発者たちと同じなのである。
その盛り上がりのまま「岡パクヒート」が呑める次のお店に「SAKURA」に河岸を替える。今度はオシャレ感満載なダイニングバー。
こちらでは岡山パクチーを使ったイタリア料理を堪能する。出てくる全部パクチー料理なんだけど気にならない。チーズとオリーブオイルに本当によく合う。ウマイ。お店の方々も親切で、オシャレな店にはどう見てもそぐわないオジさんたちにも優しくしてくれた。忙しいにもかかわらず、写真も撮ってくれた。
そして帰京の際には、植田さんと佐藤さんはわざわざ駅まで見送ってくれたのである。ホントにありがたかった。
広島も岡山も実に人が素晴らしい。もちろん食材も素晴らしいのだけど、それ以上に出会った人たちが良かった。
ご当地ハイボールとは、単に地方の食材を使用したハイボールなのではないのだと思う。それだけではダメなんだと思う。
きっと、ご当地ハイボールは「ご当地」に生きる人たちの思いや人生が加わって完成するのだ。だから、本当の「ご当地ハイボール」を呑みたければ、ご当地に行ってそこで地元の人たちとふれあい、一緒に盃を交わすことだ。
この旅をしてみてワタシが言いたいことはこの一言である。
「ご当地でハイボール一杯やりませんか?」
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旅の詳しい様子は「ご当地ハイボール」からご覧ください!