クラブワールドカップ準決勝、浦和レッズ v.s. ACミランは0-1でミランの勝利。得点差は1で惜敗にも見えるが、実力差は大きかった。
トーナメントの面白さの一つに「ジャイアントキリング」がある。弱いクラブが強いクラブを倒すこと。
天皇杯の愛媛FC、リーグ最終節の横浜FCと、ジャイアントキリング“された”浦和レッズとしては、その鬱憤をはらす絶好機でもあった。
たとえ勝てる確率が1%であろうと、耐えてしのいでカウンターから一度くらいは決定的なチャンスを迎えることはできるだろうから。
前半は闘莉王を中心に0-0でしのぐ、これは浦和レッズのプラン通りだっただろう。そして、後半に入りバランスを崩したところを狙い得点したのは、一瞬の綻びを見逃さないミランの見事なゲームプランだろう。
ACミランにしてみれば、アジアの小国のチャンピオンが、ここまで食い下がってくるとは思っていなかったのではないだろうか。
ボカ戦の前の調整くらいのつもりでいたところに、軽くカウンターを浴びせ、どこまでかは分からないが、本気を引き出すことができたのではないだろうか。
例えば得点した、シードルフのコメント。
僕らはボール保持率が61%という意味では、ミランが勝って当然なんだけど、その中でも苦戦させられた。
そして、アンチェロッティ監督に対する「浦和があれほど強いと思っていたか?」という問いの答え。
「今日はスペクタクルですばらしい試合だった。浦和のサポーターの情熱も感じた。浦和の選手は信じられないくらい頑張っていたと思う」
リップサービスもあるだろうが、しかし「こんなはずじゃなかった」という思いはミランの選手にはあるのではないだろうか。
身体能力、ポジショニング、スピードなど、どれを取っても、ACミランは浦和レッズの上をいっていた。しかしだからこそ、これから浦和レッズが修正すべき点も、より明確に見えたのだと思う。
啓太のボレー、コーナーからネネのフリーのヘディング、ワシントンのコースを狙ったシュートなど「ここを決められれば」という場面がいくつかあった。これを決められないと世界との差は縮められない。
さらにいえば、必ずボールを持った選手の周りにパスコースをつくるミランの選手たちと比較し、どうしても孤立してしまう浦和レッズの選手たち。
「考えて動く」はオシム監督の方針だったが、浦和レッズの選手も、もっと考えて、もっと動かないと、世界とは戦えない。そうした「違い」を肌で感じ、目標とすることができた試合だったように思う。
(願わくば達也もいて山田もいてポンテもいて、ベストメンバーでACミランと対戦してみたかった)
もちろんリーグ戦とACLを平行して戦い、終盤では天皇杯も重なってくるという非情なスケジュールの影響も大きいだろう。
今回のCWCも、セパハン戦から中二日でミラン戦に臨んでいるし、きっと来シーズンも疲労との戦いになるに違いない。
そして、ぼくは悔しい。ミランに負けたことが悔しい。負けて当然と思う人の方が多いはずだけど、それでも、ぼくは悔しい。
この気持ちがある限りは、まだまだやれると思っている。
また行こう、世界へ。
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98年6月、トゥールーズでアルゼンチンに対し「よくここまでやってくれた」と感動し、ナントでクロアチアに対し「でも、どうやってこの差を埋めていけばよいのだ」と感動した。あれから9年、間違いなく差は詰まっているのはよくわかった。しかし繰り返そう。改めて改めて埋めきれない差を感じたのだ。
浦和・阿部「素晴らしい舞台でガチンコでやれた。結果的に勝てなかったが、実りある経験ができた」
イタリアのプロリーグの歴史に比べれば、発足15年の日本のJリーグはまだよちよち歩きの子どもといえる。世界の背中を追い掛けるための出発点を知る苦い夜になった。
本気にさせたからこそ、悔しさも募った。試合終了直後は「やれないことはない」と言っていた鈴木だが、時間の経過とともに「本当に悔しい」と唇をかんだ。世界を体感できた。自らの実力も再確認できた。
「ピルロとか、カカとか坪井くんのスピードでも簡単に振り切られていた。今まで体感したことのないスピード。自分のプレーをする前につぶされた」
「怖いイメージはなかった。自分たちの守備が通用することが分かった」。ゴール前の空中戦では相手DFネスタやFWジラルディーノと互角に競り合った。
その試合で得たものは、鈴木の言葉が象徴していた。「失うものが大きい状況でずっと戦ってきて、きょうは失うものが何もないという気持ちになれた。断然、楽しく感じた」。
“本家”にも差を見せつけられた。カカーは国内屈指のスピードを持つ坪井を振り切って決勝点をアシスト。「あの坪井さんをスピードで振り切った。今まで体感したことがないスピード。本当に凄かった」。率直な驚きを口にした。
クラブ随一の欧州サッカー通で、守備重視のセリエAには興味がないと公言していたが「オッドは抜けない。簡単に体を入れられてしまった。もっとやれると思っていた」とミラン守備陣の能力の高さを認めざるを得なかった。
コンビを組む永井も得意のドリブルをことごとく止められ「前向く以前の問題。厳しいというか形にならなかった。チャンスありましたか?」と肩を落とした。
全国スポーツ紙「コリエレ・デロ・スポルト」のフェデーレ記者は断言する。「今大会のサプライズチームは間違いなく浦和。特にアベ、ソウマら日本人が素晴らしい。ハセベもイタリアで通用するだろう」。
▼浦和、カカにやられた!世界は甘くなかった…クラブW杯第5日
「1点取ったミランの堅さを僕らも見習えばいい。崩れない守備をベースに90分戦えばもっと強くなる」カカとの1対1の死闘の果てにDF坪井は重大な糧を手に入れた。
久々のプレーとなった山田は「(ベンチにいたときは)失点以外は安心して見ていられた。向こうのほうが焦っていたのでは」と敗れたが、手応えを口にした。
決してすべてが社交辞令とは聞こえない。逆にミランの攻撃陣と対峙した鈴木が「相手の能力は分かっていた。その中で(67分間は)失点しなかったのは大きい」と口にしたように、浦和の選手自身も、世界レベルの厳しさを知る一方で、勝利がまったく届かぬ夢ではないことを知った。
▼サポーターもガチンコ観戦!Jとは違う緊張感、敗戦にも満足感
浦和ファンだという、アルバイトの女子高生2人は「いつもとは違う緊張感がありました。声を出すのも緊張したし、お客さんから(試合が見えないので)“どけ”とか言われたり…。Jリーグの試合とは全然違いました」と驚きの表情を隠さなかった。
前々夜、旧知のミランのアンチェロッティ監督と会食した岡田監督によると、ミランは相当、浦和を研究していたという。
母国へ中継したイタリアの衛星テレビ局「スカイ」の記者も、波状攻撃を見せながらも前半を無得点で終えたミラン勢にイライラ。「また(ベテランの)インザーギに救ってもらうんじゃないかと思っていたよ」と、決定力不足を嘆いていた。
サッカークラブW杯で浦和レッズがACミランに惜敗した13日夜の準決勝を生中継した日本テレビの番組の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)が23.1%を記録していたことが分かった。
MFカカから「印象に残った選手」として名前を挙げられたMF鈴木啓太だったが、「個人の力では埋めることができない差を感じた。日本が世界に向かうとき、組織でやるしかない」と脱帽。