エアコンの進化は気づかないところで進化&深化していたようです。
静岡県静岡市にある三菱電機静岡工場で、オジ旅一行として主力製品である家庭用エアコン「霧ヶ峰」の凄い技術について工場見学し、さらに担当技術者の方から話を伺いました。部屋を冷やしたり温めたりするのは当たり前、さらにその先のどこまで行けるのか?
登場からウン十年が経過し、もはやエポックメイキングな出来事はないのではないかと思っていたエアコン業界に、ムーブアイ極(きわみ)とパーソナルツインフローという技術革新がもたらされていたことを知りました。言うなれば「部屋を快適にする」から「個人を快適にする」への革新です。
普段は見ることのできない工場に併設されたショールームと工場見学の様子とあわせてレポートします!
三菱エアコンの歴史を学ぶ「霧ヶ峰」の誕生は約50年前
1968年、世界初のラインフローファンを搭載した壁掛け形のセパレートエアコンとして「霧ヶ峰」は誕生しました。約50年、基本技術としてラインフローファンというものが使われてきたのですが、これが大きな構造革新することになったのが、パーソナルツインフローなのです。これは後で詳述しますが、エアコンの歴史的革命と言うべきものです。何しろ、送風そのものが変わってしまったのですから。
ところで「霧ヶ峰」には兄弟製品があったのをご存知でしょうか? 床置きセパレート形が「上高地」で窓掛形が「軽井沢」です。いずれも避暑地の名前を冠されたエアコンですが、この中でも「霧ヶ峰」が日本の家屋に合った標準的なタイプとして歴史を刻んできました。
そうそう、一昔前のエアコンてこんな感じだったよなー、と懐かしく思いながらショールームを見学していたところに登場したのがこちらです。
三菱エアコン「霧ヶ峰」の最新の製品でありフラッグシップモデルであるFZシリーズです。
横から見ると旧来製品と較べて奥行きがあるのですが、これには法律改正に沿ってきた歴史があるのです。省エネ法が厳しくなる中で、熱交換器という装置を多く搭載する必要が出てきて、結果的に奥行きのある形状になっています。薄くしたくてもできない現状の中で、三菱電機はどのようにエアコンを進化&深化させてきたのでしょうか?
「省エネと快適の両立がコンセプト。高い次元で両立するためにエアコンとしてどうあるべきか? ということを考えながら霧ヶ峰は歩んできた」と語る、開発を担当した松本さん。
50年ぶりの技術革新が「パーソナルツインフロー」
省エネと快適のために、2016年に新たに三菱エアコンに導入されたのがこちらの技術です。
エアコンの上部に取り付けられる2つのファン、つまり「パーソナルツインフロー」です。従来タイプのエアコンは、手前に置かれたラインフローファンと呼ばれるものが50年近く使われてきました。このエアコンの50年の歴史の中で、初のファンの革命とも呼ぶべきものが「パーソナルツインフロー」なのです。
ちなみにエアコンは圧縮機、中、外のモーター、熱交換器くらいしかデバイスがなく、それぞれを50年間磨きに磨いてきたため、各社ともラインフローファンに関しては同じようになっているそうです。
これはFZシリーズの内部構造です。上段がファン、真ん中が熱交換器です。
「パーソナルツインフロー」は左右のプロペラファンを独立制御することで、複数の気流を生み出すことに成功しました。冷房の場合、暑いと感じる人には強い風を、寒いと感じる人には弱い風を、そんな風にコントロールすることが可能になったのです。ラインフローファンでは送風口から左右同量の風が出続けるので、できなかったことなんです。
パーソナルツインフローに加え、フラップがダブルで動くことで、手前と奥でたすきがけのような送風が可能になっています。
さらに、パーソナルツインフローは省エネにも貢献しています。省エネに関する法律は変わり続け、エアコンには厳しいものになっています。エアコンの効率を上げるには、熱交換器を大きくする必要があります。熱交換器自体は電気を消費するものではないので、これを大きくできればできるほど、部屋を冷やしたり温めたりする効率が上がります。
熱交換器をどれだけエアコンに乗せられるか、ラインフローファンの周りにどれだけ詰めるか、がこれまでのポイントでしたが、しかし乗せすぎると空気抵抗になってラインフローファンが空気を引っ張れなくなってしまうという痛し痒し。ラインフローファンも大きくし、結果的にエアコンがどんどん大きくなってしまったという歴史がありました。
そこにエポックメイキングな発想の転換として登場したのが、パーソナルツインフローです。上から風を出し、下に熱交換器があれば良いという仕組みです。熱交換器も、ブロック状にそのまま入れることができます。
羽根をいかに薄くするかというのも、技術のこだわりです。羽根が薄くなればなるほど、熱交換器を多く積むことができます。
技術のブレイクスルーになったのが、オリジナルのモーターです。開発当初はエアコンに適した高効率の小型モーターがなく、市販のモーターを使っていました。最終的には小型高出力のモーターまで作ってしまったのだそうです。小型のモーターが作れたから、2つのファンが実現できたそうです。
結果、送風効率に関しては31%も効率化することができました。
現状の熱交換器をどれだけ効率的にスペースに入れらるか、検討を重ねた結果、W字で置くという方法に辿り着いたのだとか。なぜM字ではなくW字なのか。そこにも理由があり、ドレン水の受け皿がMよりもWの方が少なくて済むそうです。
三菱エアコンはあなたを見ている「ムーブアイ極」
三菱エアコンならではのもう一つの機能が2005年に登場した「ムーブアイ」そして、2014年に進化した「ムーブアイ極」です。ムーブアイは、センサーで部屋にいる人、部屋の状態を見ています。
どんな風に見えているかというと、こんな風に見えています。
左側が従来のムーブアイ、右側がムーブアイ極で、解像度が4倍に進化しています。明らかに「人がいる」ということが、ムーブアイ極には見えています。センサーを細かくし、より細かく駆動して画像解析しています。これにより、手足、指先の温度まで測れるようになりました。「あの人が寒そう」ではなく「あの人の足先が寒そう」ということまで分かるのです。
ムーブアイ極が凄いのは、人だけでなく部屋の様子まで観察しているところです(もちろん電源がオンの状態の時)。
360度センサーにより、ムーブアイ極は壁の輻射熱まで見ている。自分が設置されている下にある窓も見ています。どういうことかというと、人も含めて部屋の熱情報すべてを見ています。高さ情報も検知し、デイリーの熱画像の情報から足跡をどんどん記憶することから、床面の情報も見えてきます。やがて部屋の形状を推測し、それに合うような制御をするようになります。床と壁が分かると、
妙に熱いのが窓ということも分かり、暑いところにいる人の体感温度まで判別し、エアコンを動かすこともできます。精度は上がり、ずっと記憶していくので、部屋に対してエアコンがどんどん賢くなっていくという訳です。
部屋の形状を学習したり、窓の位置を学習したり、窓のカーテンが開いていると、リモコンに「カーテンやドアが開いてませんか?」とお知らせする機能まであるのだとか! どこまで賢いんだ!
「エアコンは常に電源をオンにした状態で、お客さんの求めている環境を作り出していくようになっていくかもしれません」と松本さん。
デザインにこだわり抜いたFLシリーズ
2016年の三菱エアコンのもう一つの目玉が、デザインにこだわったFLシリーズです。デザインに優れ、リビングにも違和感のないスタイルになっています。
フィルターお掃除メカをあえて搭載せずに薄型とインテリア性にこだわった、もう一つのフラッグシップモデルです。掃除の手間に関しては社内でも議論になったそうですが「あと10cm大きくて美しいといえるのか?」ということから、自動お掃除機能非搭載という結論を選択しました。
FLシリーズのお話を聞かせて下さったのは、デザインを企画した中洲さんです。松本さんもそうでしたが、責任者がこのように語って下さるというのは、開発の苦労話からこだわりの点まで、非常に分かりやすく伝わりました。
この写真からも分かるように、初期コンセプトモデルとFLシリーズの製品は、ほぼ同じデザインです。このようにコンセプトモデルがそのまま製品になるのは珍しいことではないかと思うのですが、デザインに一目惚れしたトップから「初期コンセプトモデルをそのまま製品化しよう」という大号令がかかったそうです。
デザイナーはコンセプトモデルとして作った。だから、当時から赤だった。インテリア、家具の一部として部屋の魅力をアップするように。吹き出し口も見えちゃいけないよね、と。設計者からすると「こんなのはエアコンになる訳ない、ありえない」と反発が大きかった。デザイナーも量産するとは思っていなかったので好きにデザインしていた。そうは言いながらもこれが製品化されたら素晴らしいと思っていた。「なんとかしたいね」という機運が高まっていった。
テレビドラマのような話なのですが、これは実話です。なんとかコンセプトモデルを製品として実現するために出てきたのが「格納式フラップ」というアイデアでした。これは特許技術です。
これにより、普段は吹出し口が見えないエアコンが実現できました。
「さらに霧ヶ峰としての性能にもこだわりたい。ムーブアイセンサーをつけたい。どこに付ける? 下につけよう。常に飛び出しているのはイヤ」というところから、運転していない時にはモーターで中に格納されるセンサーが誕生しました。
コンセプトモデルは表面仕上げが特徴。アルミの無垢材にヘアライン処理してある。赤いクリアの塗装を何層にも塗っては磨き‥‥をした。コストもかかるし、金属部品は露がつくので良くない。しかし、イメージとしては出したい。なんとか量産に乗せたい。試行錯誤した。何をやったか? 表面はクリア、普通のエアコンの意匠部品の数倍のコストがかかっている。ここまでが赤の話。
実は中まで赤にこだわっているところも披露されました。フィルターまで赤です。そこまでする!?
コストとの戦いでもあったと思いますが、とにかくインテリア、デザインとしてのこだわりが半端ないFLシリーズなのです。
中洲さんは白が1色あればいいと思っていたリモコンも、今度は設計陣から「それはだめだろう!」と話があり、赤も出すことになったそうです。最後はエンジニアがこだわりました。
もちろん、霧ヶ峰のエアコンとしてのこだわりもあります。快適で省エネ性能が高くないと霧ヶ峰ではありません。FLシリーズも上位クラスに相当する省エネ性能を持っています。「ベースの機種はなんですか?」と聞かれるものの、完全に専用設計になっているそうです。センサーも上位機種と同じムーブアイ極が搭載されています。
普段からデザインやインテリアにお金をかけるという人は、どんな性別、所得に関わらず2割くらいいるものなのだそうです。アンケートをしたところ、そういう人たちにもフィルター自動掃除機能の評判はいいものの、機能が付いて奥行きが350mmと機能が無くて233mmだと「自分で掃除するからフィルター自動掃除機能はなくてもいい」となるそうです。
フィルター自動掃除機能はコストがかかっていますが、それを表面処理などに回したそうです。そのため、値段はデラックスなエアコンと同じですが、要は「どこにお金をかけるか」ということになります。
そして、一見すると気づきにくいデザインへのこだわりがここにもあります。
配管のためのガイドの切欠きガイドがないんです。
通常は配管用の切欠きを開けるためのガイドが左右上下につけられているのですが、使わないものもあるからこれが美しくないというこだわりで、デザインを優先することになりました。どうなっているかというと‥‥?
切欠きのついたパーツが同梱されています。配管の必要に応じて、このパーツを交換します。フィルターが赤くなっていたのもそうですが、この見えにくいところに対する徹底したこだわりが、三菱エアコンらしさを体現しているように感じました。普通はここまでやりませんよ、絶対に。一切の妥協がないリビング向けのエアコン、それがFLシリーズです。
品質にこだわるセル生産方式
FZシリーズは中身が全く新しいため、これまでの霧ヶ峰の品質基準を一から作らなくてはならなかったそうです。そこで、ラインのスペシャリストが選ばれ、セル生産方式に入って霧ヶ峰の品質を守っているとのことでした。
工場見学もさせて頂きましたが、セル生産方式のところではスペシャリストが責任を持ってFZシリーズを完成させていました。
三菱エアコン「霧ヶ峰」は技術の塊だった
工場見学をして、エアコンというものが思っている以上に技術の塊であることが分かりました。気密性に優れた部屋ではエアコンを稼働させたままにした方が電気代が安いなんていう話もたまにネットで目にしますが、近い将来、本当に24時間稼働で「霧ヶ峰」が部屋の環境をコントロールする存在になるのは間違いないな、と思いました。
50年ぶりの技術革新という凄いタイミングで工場見学できたのも光栄でした。部屋をまとめて冷やすのではなく人を見て冷やす、ひいては省エネになる‥‥そのために開発された「パーソナルツインフロー」と「ムーブアイ極(きわみ)」は三菱電機独自の進化&深化した凄いエアコン技術でした! このままエアコン神に神化する!?
製品の詳細・特長は下記からご確認ください。
工場見学の様子は「三菱電機静岡製作所」オジさんの社会科見学まとめという記事もぜひご覧ください。
この記事に関して
三菱電機の依頼により工場を取材、記事執筆をしています。